『卵子探しています』 第三者による卵子提供を求めて海外を目指す

フリーアナウンサーの丸岡いずみさんと映画コメンテーターの有村昆さんがロシアで代理母出産をしたことは最近大きな話題となりました。
国が変われば制度も違い、日本ではできない治療を求めて海外に行かれる方も珍しくない今、世界の不妊治療をレポートした『卵子探しています: 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて』はタイムリーな一冊であると思います。第三者による卵子提供についてこの本を参照し、印象深い所をまとめたいと思います。

不妊治療の原因においてよく言われるのが「卵子の老化」です。多くの国で第三者による卵子提供が一定の規制のもとに認められていますが、現在、日本では卵子提供による不妊治療は原則として認められていません。

厚生労働省の報告書には第三者の卵子提供を受けることができる条件として「子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限る」「自己の精子・卵子を得ることができる場合には精子・卵子の提供を受けることはできない」「加齢により妊娠できない夫婦は対象とならない」とあり、かなりハードルが高いです。

一方、スペインでは年間14000人の外国人女性が不妊治療を行い、そのうち70パーセントが卵子提供による体外受精です。2012年は50人、2013年は55人の日本人女性が卵子提供による不妊治療を求めてバルセロナ市内にあるクリニック、エウジンを訪れたとのことです。また、公式データではないものの、タイで卵子提供による不妊治療を行う日本人は年間数百人にのぼると報じられています。

国内で卵子提供を受けることの難しさから海外に活路を見いだす人々が少なくないのだから日本でも卵子提供をしたらよいのではないかという意見もありますが、ことはそう単純ではありません。

加藤レディスクリニックの加藤恵一院長は、日本の融解胚移植による妊娠成績が世界でもトップクラスなのは、高齢でも安易に卵子提供に逃げられないため各クリニックが切磋琢磨した結果であると言います。

また、卵子や精子の提供を受けた時、子どもが自分の遺伝子情報を知る権利、すなわち「出自を知る権利」をどう扱うのかという問題もあります。

スウェーデンでは、世界的にも少数派ですが、子どもは18歳を過ぎれば出自を知る権利があります。なぜなら、スウェーデンの不妊治療は「親の権利より子どもの幸せ」という考えが原点になっているからです。

この考え方は不妊治療を行うカップルで保険が適用されるのは男性は54歳までという年齢制限があることにも表れています。不妊治療を希望する人物がこれから産まれる子どもが18歳になるまで生活能力があるかを考えた時、父親の年齢は重要であるからです。

「数十年前はカトリック信仰が強かったため、体外受精など考えられなかった」スペインには、今や世界中から不妊治療を求める人々が訪れます。社会の変化に対応するうえで外国の事例は参考になりますが、日本の文化や価値観を無視して外国のまねに終始するのではなく、生まれてくる子どもたちの幸せを考えて十分な議論を重ねることが必要であると思います。

<参照>
■宮下洋一、『卵子探しています: 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて』、小学館

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