【BOOK】『LIFESPAN 老いなき世界』 小食と軽い運動は妊活にプラス、そして老化も予防する


Illustrated by 丑蟻

私は妊活のカウンセリングで食事の量をいつもより少し減らすプチ断食と軽い運動を勧めていますが、朗報です。この2つは妊活だけでなく、老化予防にも有効であるとハーバード大学医学大学院の遺伝学教授、デビッド・A・シンクレア先生は言います。

今、どの本屋さんに行っても平積みになっているシンクレア先生の著書、『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』には「人類は老いない身体を手に入れる」という衝撃のオビがついています。「そんなバカな」と一蹴したくなりますが、著者近影は確かに若々しく、つい手が伸びます。

老化のメカニズムについて、詳細は本書を参照していただきたいのですが、人間は常に細胞を作り続けていますが、DNAが損傷したら細胞を作るエネルギーがDNAの修復に回されるので、DNAを損傷し続けている人は新しい細胞が作られにくく、老けていきます。DNAが修復できないくらい大きく損傷する、またはDNAの損傷がそこら中で起こっているので修復が間に合わない時に老化が早まり、がん、心臓病、糖尿病といった病になると著者は言います。もちろん年齢は損傷するリスクを上げますが、かつては「成人病」と言われていたがん、心臓病、糖尿病が今は「生活習慣病」と言われるのは、若くても生活習慣に起因するリスクにさらされ続けていたらこれらの病気になりえるということです。

ですから、著者は「老化こそが病気であり、がん、心臓病、糖尿病は老化による個々の症状にすぎない」と言います。ではどうすれば「老いを治す」ことができるのでしょうか。著者の戦略は「適度な負荷をかけることで生存力を鍛える」です。そして「今すぐ実行できて、しかも確実な方法」として「食事の量と回数を減らしてください」と言います。そうすれば「細胞の防御機能を高め、環境が厳しいときにも生命を維持し、病気や体の劣化を防ぎ、エピゲノムの変化を最小限に留め、老化を遅らせる」と著者は続けます。軽くおなかがすいている状態が適度な負荷になります。

もうひとつ、勧められているのは運動で、1日、10~15分のゆっくりとしたジョギング、または速めのウォーキングで軽く負荷をかけます。スマホを見ながらうつむいて歩いている場合ではありません。駅からの帰り道、その10分を早足で歩くことから始められます。

私が妊活のカウンセリングで「食事の量を少し減らしてください」「軽くてよいので運動をしてください」と言うと、「それが妊活と何の関係が?」と言われる方もおられますが、この本の流れで言うと、「適度な負荷をかけることで生存力を鍛える」ことができるからです。妊活はご自身の生きる力を高めるために自分の生活を見直して体を作り上げていくことです。妊活を機に禁煙する、食を見直す、早く寝るといった生活習慣を見直される方は多くおられます。決してある時期だけ行う特別なことではなく、女性だけが行うことでもありません。生涯、生き生きとすごすためにぜひご夫婦で意識していただけたらと思います。

<参照>
■デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント、『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』、東洋経済新報社