海の金塊、龍涎香


Illustrated by よづな

タイ南部で地元の漁師が海岸を散歩中、いくつかの岩の塊のようなものを見つけました。実は龍涎香(りゅうぜんこう)と呼ばれる大変貴重なものであることがわかり、しかも塊を全部合わせると約100キロあるので、鑑定の結果、良質のものであれば3億円以上の値がつくと見込まれています。

「海に漂う金」の異名を持つ龍涎香はアンバーグリスとも呼ばれ、高級ブランドの香水の原料に使われます。「海の泡が固まったもの」「大きな鳥の糞」など、その正体は長い間、謎に包まれていましたが、1800年代に大規模に捕鯨が行われるようになり、少しずつわかってきました。

今はマッコウクジラがイカなどを大量に食べた時に、通常は吐き出されるクチバシなど未消化のものが腸に入るとそれらが内臓を傷つけないように何年もかけてクジラの体内で固められていき、それが龍涎香になると考えられています。英国の自然史博物館で海洋哺乳類のキュレータを務めるリチャード・サビンさんは「龍涎香は腸で形成され、糞と一緒に排出される」と言いますが、クジラの糞の5%以下にしか見つからない希少なものです。最初は強烈な臭いを放っていますが、乾燥するころにはムスクのような香りになります。

龍涎香は1000年以上前から香料として珍重されてきましたが、昔の人の知恵には本当に驚かされます。

<参照>
■Debbie White, MOBY SICK Penniless fisherman finds ‘world’s largest-ever’ blob of whale vomit worth £2.4MILLION because it’s used in perfume, The Sun, 30 Nov 2020