【BOOK】『悲しみのゴリラ』 大切な人を失ったとき

 

お母さんを亡くした男の子のもとにゴリラが現れます。
残されたお父さんと男の子は悲しみが深すぎて気持ちを分かち合えず、お互いに誰にも言えない悲しみを抱えています。

ゴリラは悲しむ男の子のそばで、男の子の問いに答えていきます。
「いつになったら、かなしくなくなるの?」と聞く男の子が回復へと歩みだす気づきを得たころからゴリラは男の子と少しずつ距離を取り、やがて去っていきます。

作者のジャッキー・アズーア・クレイマーさんは、父親を亡くしたある姉妹に「愛する人を失ったとしても、常に希望と愛は失われない」ことを伝えたくて、この話を書いたといいます。

絵に差し込まれる赤い色が印象的で、絵本は自由な解釈を許してもらえるということで感じたことを記しますが、どの絵の中にも赤や黄色のモチーフがあり、それらが愛や希望のメタファーであると思います。

お母さんのお葬式の場面でさえ、赤のモチーフがあります。

とても小さいので、最初は気づかないかもしれません。
しかし、どんなに小さくても、隅にあっても、一度、その存在に気づけば、決して見過ごすことはありません。
黄色のひなぎく(そしておそらくは赤い鳥も)はお母さんの象徴で、男の子が悲しい気持ちをお父さんに伝えることができたとき、お母さんとゴリラも一緒に感情を抱きしめます。

作者は「『悲しむことを恐れないで』と伝えたい」と言います。
「あなたの悲しみに誰かが耳を傾け、気にかけてくれるはずです」。

大切な人が亡くなった時、押し寄せる感情とどう向き合えばいいのか、そして悲しむ人にどう接したらいいのか、正解はないと思います。
ただ、悲しみをそのまま受け止め、愛や希望に気づくまでには時間がかかり、そのためには寄り添ってくれる存在が大切だと気づかされます。

この本は愛する存在を失って悲しんでいる方、そしてその方の身近におられる方の支えになる一冊であると思います。

<参照>
■文:ジャッキー・アズーア・クレイマー 絵:シンディ・ダービー 訳:落合恵子、『悲しみのゴリラ』、クレヨンハウス

■『悲しみのゴリラ』の作者が、いま、伝えたいこと「悲しむことを恐れないで」、月刊 クーヨン 2021年 03月号