知識は薬


Photo by 3120

秋といえば「食欲の秋」「スポーツの秋」などいろいろですが、今年はぜひ読書の秋をおすすめしたいです。

ビブリオセラピーという言葉をご存じですか。

2013年に英国の公的医療機関であるNHSが始めたことで大きな注目を集めたビブリオセラピーは、日本では「読書療法」と訳されることが多いです。
ウェブスター辞典には「医学・精神医学療法の補助手段として選出された読み物を用いること。指導に沿った読みを通して個々人の問題解決を導くこと」とあります。

医師がうつ病などの患者さんに適した本を処方し、患者さんは図書館でその本を借りて読み、自ら心の手当を行います。

2009年のサセックス大学の研究によると、たった6分間、本を読むことで、ストレスが68%減少し、音楽を聞くことや散歩よりもストレス解消に効果がありました。
古典古代世界における最も重要な図書館であったエジプトのアレクサンドリア図書館の棚には「魂を治す場所」と刻まれていたと言われていますが、本に心の救済を求めるのは、今も昔も変わりません。

しかし、近年は不安やストレスといったメンタルヘルス問題に限らず、肥満や悪性腫瘍など、その対象が広がってきています。

ビブリオセラピーへの関心が高まっているのは、関連の研究論文数が1980年代はわずか1件であったのが、1990年代から増加し始め、2010年代に入ると100件を超えて増加していることからも明らかです。

この背景として、明治大学の泉順子教授は「先進国における慢性疾患数の増加に並行してより経済的で持続可能な、かつ体への負担が漸減できるような療法への期待が増していること」「患者中心の段階的なケアを推進する医療政策がセルフ・ヘルプ的な機能をもち認知療法と相性の良いビブリオセラピーを積極的に導入し始めたこと」を挙げておられます。

生活習慣病の予防と改善には知識が必要です。
なぜなら、その病気を作ってしまった原因は毎日の生活の中にあるからです。
病院の治療と並行して、正しい情報を得て自分で理解し、自分で体を作っていかなければ、本当の意味で病気を治すことはできません。

東洋医学は長い期間にわたって人々の健康を支えてきた、日常で実践できる知識の宝庫です。それらを伝えていくことの重要性をますます感じています。

<参照>
■泉順子、ビブリオセラピーにおける文学作品の効能 -文献レビュー、明治大学教養論集 533: (167)-(186)、30-Sep-2018、URI: http://hdl.handle.net/10291/19842
■NHS, Self-help therapies
■Jessica Mansourati, WANT TO REDUCE YOUR STRESS LEVELS BY 68% IN 6 MINUTES? READ A BOOK, May 31, 2019