牡蠣のおいしさは古今東西を問わず

牡蠣がおいしい頃になりました。

今でこそミネラルが豊富に含まれていることがわかっていますが、はるか昔から人々は牡蠣の効能がわかっていたようです。

平安末期に編纂された歌謡集、『梁塵秘抄』には「擇食魚に牡蠣もがな」とあります。
「擇食魚」は「つはり」と読み、つわりの時に牡蠣を勧めています。

生食や牡蠣フライ、牡蠣鍋や牡蠣粥など数え切れないくらいの献立に使われ、醤油や油など調味料にも使われます。
中国でも貧血予防や疲労回復、美肌効果があるということで人気ですが、世界中で食されています。

殻は牡蛎(ぼれい)と言い、気を下に下げる働きがある漢方薬として使われます。
処方としてよく知られているのは柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)で、精神不安や不眠などに使われます。

兵庫県の牡蠣の産地のひとつに相生があります。
普通なら食べごろになるまで2~3年はかかる牡蠣ですが、相生湾には山の豊かな養分を含む揖保川と千種川が流れ込むので、相生牡蠣は1年で育つそうです。

相生で、あるお店の方に牡蠣のおいしい食べ方を聞いたら、
「シンプルに焼くのが一番、いいんちゃうか」
とのことでしたが、唐代の著名な医薬学家であった孟詵(もうせん)も同じことを言っています。

「火の上に置き、ぐつぐつしてきたら殻からはずして食べると甚だ美味である」

牡蠣のおいしさは時空を超えます。

<参照>
■槇佐知子、『くすり歳時記』、筑摩書房