冬は「腎」を養う季節です。腎は生命エネルギーである精を蔵し、腎が弱くなると老化による不調や免疫力の低下を招きます。腎を養うために黒色や鹹味(かんみ:塩からい味)の食材がよいとされますが、今回は、兵庫県で収穫が最盛期を迎えている海苔についてお話します。
海の緑黄色野菜と言われる海苔は、タンパク質や食物繊維、ビタミン類、カルシウムや鉄などのミネラル、不飽和脂肪酸のEPAが含まれ、肝機能改善や貧血予防など生活習慣病や健康増進によい食材と言われます。
昔から海苔を食用としてきたのはアジアだと思われていますが、ウェールズでは海苔を煮込んだ「バラ・ラウル」をトーストに塗って食べます。今では「ウェールズ人のキャビア」と呼ばれるバラ・ラウルはパルマハムやシャンパン同様、原産地呼称保護の対象に指定されています。
実は、ウェールズ地方の海苔は日本の海苔養殖と深い関係があります。日本では早くから海藻の養殖が行なわれていましたが、海苔の養殖はうまくいかない状況が続いていました。英国人藻類学者のキャスリーン・ドゥルー=ベイカー博士がウェールズ地方のアマノリ属の標本から海苔の繁殖サイクルを解明し、親交のあった日本人藻類学者たちに伝えたことで、日本の海苔養殖の土台ができたとのことです。
日本でも、もともと海苔は汁物の具や佃煮にして食べられていたようですが、江戸時代に浅草の海産物屋が和紙の製紙技術を応用してシート状の海苔、いわゆる板海苔を作り、これが浅草海苔となったといわれています。板海苔はスシ・ブームに乗って世界中に広まり、今では「nori」は海外でそのまま使える日本語のひとつになっています。
近年は温暖化の影響で海水温が下がらず、生産数量が不安定な状況が続いており、今年の海苔の価格はここ数年で同時期の平均単価の約2倍と高騰しているのは懸念されますが、兵庫県漁業協同組合連合会の担当者は「全国的な不作の中、兵庫県では量も質も維持できている」とコメントしています。ごはんのお供だけでなく、いろいろな料理に使いやすい食材ですので、おいしくいただいて腎を養っていきましょう。
<参照>
■兵庫県産ノリ収穫最盛期 明石市内5漁協、入札会に年明けから参加 温暖化で例年より遅れ、神戸新聞、2025/2/6
■セシリー・ウォン (著), ディラン・スラス (著), ナショナル ジオグラフィック (編集)、『地球グルメ大図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』、日経ナショナル ジオグラフィック
■カオリ・オコナー (著), 龍 和子 (翻訳)、『海藻の歴史』、原書房