妊娠中の鉄不足が胎児の性決定に影響を及ぼす可能性

 


Illustrated by 松本 松子

 

 

大阪大学の研究チームが、鉄不足のマウスの胎児は精巣形成が阻害され、雄化が妨げられることを発表し、母体の栄養状態が胎児の性決定に影響を及ぼす可能性を示しました。

 

マウスを鉄欠乏状態で妊娠させたところ、胎児の多くが精巣ではなく卵巣を発達させ、一部で外見もメスとして産まれてくる性転換が確認されました。哺乳類のオス化にはY染色体上のSry遺伝子が特定の時期にオンになる必要がありますが、そのための補助として鉄が必要であることを示した研究です。

 

「今回の知見を直ちにヒトに当てはめることはできないが、妊娠中の栄養状態が胎児の発達に及ぼす影響は無視できない」と岡下修己准教授が述べているように、鉄不足に関連しては、「妊娠初期の貧血は子の心疾患リスクを高める」「産後うつ病は鉄不足と関連する」ことも報告されています。特に女性は月経で鉄不足になりやすく、ヘモグロビン値が正常でも貯蔵鉄が低い「隠れ貧血」が多く見られる現代社会では、鉄摂取の重要性が再確認される必要があります。

 

■妊娠初期の貧血は子の心疾患リスクを高める

■心の不調と栄養素

 

貧血の原因は多様ですが、妊娠中に特に多く見られるものに鉄欠乏性貧血、葉酸欠乏症貧血、ビタミンB12欠乏症貧血があります。バイエル薬品の2022年の調査によると、妊婦が不足させやすい栄養素ランキングの第一位は鉄で、全妊娠期を通じた鉄の不足率は97.8%、そして葉酸の不足率は87.1%にもなります。

 

 

漢方において、鉄と葉酸を補う第一選択肢はナツメです。特に、ナツメと阿膠(あきょう:ロバの皮のコラーゲン)の処方は「鉄が多く含まれる」「体を温める」「体力をつける」ことから、中国では昔から「女性の宝」と言われてきました。

 

鉄はすぐに補給できるものではないので、継続して摂取することが必要です。中国では、貧血予防のためにふだんからナツメをよく食べます。鉄と葉酸が豊富に含まれるナツメは、東洋医学では胃腸の働きを助けて気血を増やすとされます。毎日の養生に、ぜひナツメを活用してください。

 

 

<参照>
■Naoki Okashita et al, Maternal iron deficiency causes male-to-female sex reversal in mouse embryos, Nature. 2025 Jul;643(8070):262-270. doi: 10.1038/s41586-025-09063-2. Epub 2025 Jun 4.
PMID: 40468068 DOI: 10.1038/s41586-025-09063-2