前回の「産後の養生に耳への温灸」に続いて、耳の温灸がおすすめの症状についてお話しします。
のどや胸のあたりに何かが詰まっているような感覚がある時はありませんか。病院で検査をしても異常はなく、病気ではないと言われても、症状が続くと不快感に悩まされます。もちろん、実際にのどに異物があるわけではないため、水などを飲んでも違和感は消えません。
西洋医学では、この症状は咽喉頭異常感症と呼ばれ、ストレスや不安、自律神経の乱れが関係していると考えられています。
一方、東洋医学では、これを梅の種(核)が詰まっているような違和感に例えて「梅核気」と呼び、ストレスや過労などによる気の滞りによって引き起こされると考えます。気滞が長く続くと、体内の水分代謝が悪くなって「痰」というかたまりになり、これが詰まりとして現れます。
梅核気の治療法として、現存する中国最古の医学書と言われる『黄帝内経』に「足少陽胆経の陥下に灸をする」という記述があります。陥下は、触った時にまわりと比べてへこんでやわらかくなっているところです。つまり、足少陽胆経という経絡のへこんでいるところにお灸をするとよいということです。
私は、耳に温灸をすることをおすすめします。足少陽胆経は耳付近も通っています。一般の方は足少陽胆経と言われてもどこを通っているかわかりませんが、耳なら場所がすぐわかり、温灸もしやすいからです。
また、2025年7月に発表された南通大学の研究チームによる「経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)が咽喉頭異常感症(梅核気)に及ぼす有効性:前向きパイロット研究」も参考になります。
経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)は、耳甲介に微弱な電気刺激を与えることで、迷走神経を介して脳のさまざまな領域の神経活動を調節しようとするものです。
35人の咽喉頭異常感症患者にtaVNS治療を2週間にわたり1日1回30分間行ったところ、咽喉頭異常感の症状が有意に軽減し、特にベースラインで感情的な苦痛を抱えていた患者において、不安および抑うつスコアが改善しました。得られた知見から、「のどの違和感に対する新しい治療法として、taVNSは体への負担が少なく、患者に受け入れられやすい方法として期待できる」と研究チームは結論づけています。
同様の効果は、耳への温灸でも可能です。私が開発した邵氏温灸器は耳全体をあたためることができるので、わざわざツボをとる必要がなく、専用のクリップで安全に温灸をすることができます。温灸剤はヨモギに松節とシナモンを加えてパワーアップし、煙とにおいを極力抑える加工をしていますので、ご家庭でも使いやすいです。梅核気にお悩みの方は、ぜひ一度お試しください。
<参照>
■Chao Hang et al., Efficacy of auricular vagus nerve stimulation for globus pharyngeus: A prospective pilot study, Am J Otolaryngol. 2025 Sep-Oct;46(5):104714. , PMID: 40743888 DOI: 10.1016/j.amjoto.2025.104714


