近年、耳ツボを使った治療に注目が集まっています。ハーバード大学医科大学院のヴィタリー・ナパドウ正教授を中心とした研究チームが発表した、子宮内膜症に起因する慢性骨盤痛患者に耳介迷走神経刺激を行った論文を紹介します。
研究チームは、専門の疼痛クリニックに通院する子宮内膜症に起因する慢性骨盤痛患者に対して、呼吸同期耳介迷走神経求心性刺激 (RAVANS) の誘発痛鎮痛効果を、非迷走神経性耳介刺激 (NVAS) と比較して評価しました。結果は、RAVANSはNVASと比較して、N=15のCPP患者において、誘発痛強度と機械的疼痛の時間的加重を減少させる傾向を示し、不安を大幅に軽減しました。
論文の考察では 、RAVANSの鎮痛効果は深部組織の疼痛評価(カフ痛覚測定)と中枢性感作(時間的加重)の両方の評価項目で観察され、幅広い鎮痛を示唆していること、カフ痛覚測定は主に深部組織の侵害受容を反映しており、RAVANSが深部体性感覚に対する中枢性調節を誘発する可能性、そしてRAVANSの最も強い効果は不安の有意な軽減であったことから、迷走神経刺激と気分調節に関連があることが記されています。

Evoked Pain Analgesia in Chronic Pelvic Pain Patients using Respiratory-gated Auricular Vagal Afferent Nerve Stimulationより引用
上の図は、研究チームが刺激した場所で、耳ツボでは迷走神経と関連する場所です。
迷走神経は、脳幹から出て心臓や消化管など多くの内臓を支配している副交感神経の主幹です。この神経の活動が優位になると、リラックスした状態が促されます。また、迷走神経は抗炎症作用を持つことも知られており、体内の過剰な炎症を抑制する働きがあります。
私はよくおなかに痛みがある方に「耳に温灸をしてください」といいます。今回の研究は、耳に温灸をしたら痛みがやわらぐことを西洋医学で説明する根拠のひとつになります。この個所を王不留行(おうふるぎょう)という植物の種子で、耳ツボ刺激をしてもよいです。ご家庭で簡単にできる方法ですので、ぜひお試しください。
<参照>
Vitaly Napadow et al., Evoked Pain Analgesia in Chronic Pelvic Pain Patients using Respiratory-gated Auricular Vagal Afferent Nerve Stimulation, Pain Med. Author manuscript; available in PMC: 2013 Jun 1., Published in final edited form as: Pain Med. 2012 May 8;13(6):777–789. doi: 10.1111/j.1526-4637.2012.01385.x

