ネオニコチノイド系農薬の不妊リスク


Illustrated by こみみ

2017年のイスラエルの研究グループによる「1973年に精液1mlあたり9900万個だった精子数が、2011年には4700万個と半分以下に減少した」という発表は大きな驚きを持って受け止められました。環境ホルモンが原因ではないかと言われていますが、環境ホルモンに似た作用をするものにネオニコチノイド系農薬があります。

ネオニコチノイドが哺乳類の精子を減らすことを示す研究は複数ありますが、神戸大学の星信彦教授の実験によると、ウズラにきわめて少量のネオニコチノイド系農薬を6週間与えたところ、オスの精巣はDNAが壊れて多くの細胞が死に、メスは卵の中の赤ちゃんを育てるためのホルモンを出す細胞が死んで産卵率が下がりました。

アメリカのハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、不妊男性から食習慣について聞き取り調査をしたところ、農薬が多く含まれる野菜や果物を多量に摂取した男性ほど総精子数、正常な精子数がともに少なかったという報告をしています。

また、妊娠した母マウスに無毒性量のネオニコチノイドを投与する実験では、生まれたマウスの卵巣は34%縮小し、対照群と比べて出生児の体重や産む子どもの数も大きく減少したことが報告されています。

ネオニコチノイド系農薬は農業だけでなく、園芸や庭の除草剤やペットのノミ取り、家のシロアリ駆除、家庭用殺虫剤として、身近なところでも使われています。

ネオニコチノイド系農薬は環境ホルモンのように作用するので、少量だから安全ということは保証されません。そして問題をさらに複雑にしているのは、化学物質への感受性は人によって大きく違うということです。同じものを食べていても「全く問題ない」人と、「ひどく影響を受ける」人がいます。1000人に1例しかない症例は統計的にはほぼ意味がないかもしれませんが、自分が、または自分にとって大切な人がその1例にならないということは誰にも言えません。

東洋医学は、病になる前に対応することを重視しています。現在、参照できるデータから、せめて妊活中や妊娠中、授乳中は無農薬食材を摂るようにつとめ、家庭内のネオニコチノイド系物質を減らしていくことは有用であると思います。

<参照>
■Hagai Levine et al.: Temporal trends in sperm count: a systematic review and meta-regression analysis Human Reproduction Update, https://doi.org/10.1093/humupd/dmx022 Published: 25 July 2017
■奥野修司、『本当は危ない国産食品 ―「食」が「病」を引き起こす―』、新潮新書

■Nobuhiko HOSHI et al.: Effects of Exposure to Clothianidin on the Reproductive System of Male Quails, Received 16 December 2012/Accepted 15 January 2013/Published online in J-STAGE 29 January 2013
■Feiby L Nassan et al.: Association of Dietary Patterns With Testicular Function in Young Danish Men, JAMA Netw Open. 2020 Feb 5;3(2):e1921610. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2019.21610.