五感で食べる

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私は薬膳の話をするときに、普段の生活でこそ薬膳の知識を活かしてほしいので、手軽に取り入れられる方法を話すことが多いですが、日本料理の隨縁亭で開催する薬膳講義では、五感で味わうことを体感していただきたいから、料理長にも協力していただき、食材や調理法、盛りつけ、器などにも気を配っています。

2008年のイグノーベル・栄養学賞を受賞したおもしろい研究があります。

オックスフォード大学のチャールズ・スペンス教授とマッシミリアーノ・ザンビーニ博士は、ポテトチップを食べている時に、パリッという音を大きめにしたり、高音域を強めにして聞かせると、ポテトチップがさらにおいしく感じることを発表しました。

スペンス教授は他にも「イチゴ味のムースは黒い容器よりも白い容器で出される方が10パーセント甘く感じる」「ヨーグルトの容器を70グラムほど重くすると満腹感が25パーセントアップする」という研究を行っています。

千葉大学の一川誠教授は、「黄色は酸味を強め、黒や青などは甘味を弱める効果が確認された」「グラスが厚いとより甘く感じ、薄いとより苦く感じることがわかった」として、色や唇の感覚が味に影響すると言います。

ちなみに、スペンス教授の研究には「2人で食事をするときは1人の時よりも35パーセント多く食べ物を食べる。4人の場合は75パーセントまで増える」というものもあるそうです。

隨縁亭でお出しする薬膳は、コースなので結構なボリュームですが、残す方はほとんどおられません。食事はただカロリーを取るだけの行為ではありません。食卓での楽しい時間は、明日への活力を生み出します。この薬膳講座では、気の置けないご友人とのおしゃべりがいちばんの隠し味になっているのかもしれません。

<参照>
■CHARLES SPENCE et al., THE ROLE OF AUDITORY CUES IN MODULATING THE PERCEIVED CRISPNESS AND STALENESS OF POTATO CHIPS, Journal of Sensory Studies, First published: 28 February 2005
■五十嵐杏南、『ヘンな科学 “イグノーベル賞” 研究40講』、総合法令出版

■食器の色や形 味を左右!? 、神戸新聞、2023/9/14