協力して卵子を目指す精子


東北大学プレスリリースより引用

しばしば「競争」に例えられる受精の瞬間ですが、卵子に1番早く到着した精子が受精できるわけではありません。卵子は透明帯という殻に守られています。卵子にたどり着いた数百個の精子は卵子に潜り込もうと透明帯に挑みますが、その時、精子の頭から出る酵素が透明帯を少しずつ溶かしていきます。そうすると透明帯が弱くなっていき、やがて1個の精子が中に入ることができます。ですから、1番優秀な精子が受精するというよりも、みんなで協力して守りを弱め、隙が出たところでその中から運のよい1個がチャンスをつかむという感じです。

受精の瞬間だけでなく、卵子に向かう途中も精子は協力していることが東北大学大学院の研究でわかりました。石川拓司教授の研究グループは精子と精子の間に働く流体相互作用の解析を行い、精子が互いに助け合って泳ぐ協調遊泳の効果を明らかにしました。精子が複数集まって泳ぐことで作られる液体の流れにより、隣の精子は早く効率的に泳ぐことができ、遊泳速度を最大16%増加させます。この効果は密度が高まれば得られるので、精子数が少なくても運動性が良好なら通常の状態へ引き上げられる可能性があるとのことです。

約0.05ミリと人の体の中では一番小さな細胞である精子ですが、核とミトコンドリアと尾という必要最小限の装備で、体から離れて自分で移動できる能力があります。個としても集団としても受精のために最も合理的であることはすごいと思います。

<参照>
精子は助け合って卵子を目指す 不妊治療へつながる精子の協調運動を解明、東北大学プレスリリース、2020年11月17日