子宮移植を条件付き容認へ


Illustrated by chihiroiikoto

2014年、スウェーデンのイエーテボリ大学が子宮移植を受けた女性による世界初の出産を報告しました。その報道から約2週間後に開催された米国生殖医学会では、担当したマッツ・ブランストレーム教授の講演で1分半もスタンディング・オベーションが続き、画期的な出来事として受け止められました。その後、子宮移植は米国やブラジルでも行われ、2021年2月にはフランスでも初めて子宮移植を受けた女性の出産が報じられました。

そして2021年7月14日、ようやく日本でも日本医学会検討委員会が臨床研究として移植を認める報告書を公表し、実現に向けて大きな一歩を踏み出しました。対象となるのは、4500人に1人と推定される、生まれつき子宮がないロキタンスキー症候群の女性で、提供者が自発的な無償提供に同意することや子宮の摘出・移植の危険性について十分に説明を受けることなどが条件です。

報告書では、提供者に関わる医学的課題が解消されることから、脳死者からの子宮移植を可能とするための法令改正が提言されていますが、埼玉医科大学の石原理教授は著書、『生殖医療の衝撃』で「脳死移植では提供者が出現することを予想できないこと、また提供者の子宮について事前のチェックができないことなどの問題がある。トルコの例では、提供者が未産婦で、結果的に提供子宮に軽度の形態異常があったことが流産につながったという。したがって、子宮の提供者はできれば妊娠・分娩の実績のある女性、つまり妊娠・分娩の実績のある子宮が望ましいということになる」と言及しています。

2018年に慶応大学のチームが子宮移植の臨床研究に対する見解を求める要望書と研究計画書案を日本産科婦人科学会と日本移植学会に提出してから、今回の報告書が出るまでに長い期間を要した理由のひとつには、生命を救うための臓器移植ではないのに提供者や当事者に非常に大きな負担がかかることの是非を問われていることが挙げられると思います。

技術的に可能であることと、それがその社会において受け入れられることの間にはしばしば隔たりがあり、生殖医療において、近年はますますその傾向が強くなっていると思われます。医療は社会的合意と不可分ですが、生殖医療は生まれてくる子どもたちにもその影響は及びます。視野の広い議論が継続され、周知されることを希望します。

<参照>
■子宮移植、日本医学会が容認 自発的、無償提供条件―倫理面に課題、時事通信、2021年7月14日
■石原理、『生殖医療の衝撃』、講談社現代新書

生まれつき子宮のない女性、母親から移植受け出産 フランス初、AFP、2021年2月17日
■生まれつき子宮がない女性への子宮移植…慶大チームが研究計画案を提出、読売新聞、 2018年11月08日