ゴースト血管の弊害


Illustrated by sana**

東洋医学ではしばしば「血流循環をよくする」ことが大切だと言われますが、私は特に、毛細血管の血流をよくすることに着目しています。

近年、テレビやインターネット記事などで「ゴースト血管」という言葉がよく使われています。ゴースト血管とは、血液の流れが滞り、酸素や栄養を運ぶ機能が低下した状態の毛細血管のことです。毛細血管は血管全体の9割以上を占め、全身の細胞に酸素や栄養を届け、老廃物を回収するという重要な役割を担っています。ですから、ゴースト血管が増えると、全身にさまざまな悪影響を及ぼします。

漢方では、更年期の不安やうつに似た症状に活血剤を使うことがあります。エストロゲンの急激な減少による自律神経の乱れが更年期の不安やうつ症状を引き起こす一因であることはよく知られていますが、エストロゲンには血管保護作用があるので、これが急激に減少すると、血管内皮細胞の機能が低下して血流悪化のリスクが高まるおそれがあります。

毛細血管の血流がうまく流れていないと、胸部圧迫感や動悸など微小血管狭心症の症状が起こります。しかし、これらは不安やうつの症状と似ているため、精神的なものとして見過ごされやすいです。つまり、更年期の精神的な不調だと思われている症状のなかには、実は体の病気が潜んでいることもあるということです。実際、神経をリラックスさせて血管を開く加味逍遙散と毛細血管を拡張するタンポポT-1を使用して、更年期の不安感が顕著に改善した症例があります。ただ、生薬の使用は個人の証によって異なりますので、素人の安易な判断による使用は絶対に控えてください。

ゴースト血管が増えないよう、ふだんから養生に気をつけるとともに、不安や更年期うつの症状が続く場合は、精神科や心療内科に加え、循環器内科など心と体の複合的な視点から診断を受けることも選択肢のひとつです。