欧州の研究グループが疑似胚盤胞の着床再現に成功


©Rivron/Nature/IMBA

iPS細胞などを利用して作った胚盤胞が子宮内膜に着床する過程を試験管内でほぼ再現できたことを、オーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所などの研究チームが『nature』で発表しました。

着床は妊娠成立の大事なポイントですが、本物の受精卵を実験に使うのは生命倫理に反するため、これまでは調べることができませんでした。

人工的に胚盤胞をつくる技術と子宮内膜を培養する技術はすでにありましたが、今回はそれらをさらに改良して行われ、研究チームは「不妊治療の成功率を高める物質を発見する一方、副作用の少ない避妊薬の開発につながる物質も見つけた」として、LPAと呼ばれる物質を培養液に加えると胚盤胞の成長を促し、一方でSC144と呼ばれる物質が着床を妨げることを報告しています。

ただ、疑似胚盤胞の着床後の成長は本物の胚盤胞とは異なり、ニコラス・リブロン博士は 「現時点では子宮内膜にくっつくという最初のステップしかモデル化できていない」と言います。

ヒトの受精卵の研究は、受精後14日以降は培養してはいけないという国際的なルールのため、今回の研究も、疑似胚盤胞ではあるものの、受精後13日に相当する時点で培養が中止されました。

将来的に、これらの研究が元になって子どもたちが産まれ、育っていくのであればなおのこと、社会全体が生殖医療技術のことを理解する必要があります。

なぜなら、今では当たり前になった体外受精も、一般に理解されるまでには長い年月がかかり、その間、体外受精で産まれた子どもたちは無用に好奇の視線にさらされたからです。

今後、関連の研究が進むにつれ、これまで以上に倫理的な議論が行われると思いますが、どれだけ有用な研究であっても、それが社会にとってどのようなメリット・デメリットがあるかを公開し、研究を進めるスピードと社会の認知に大きな隔たりができないように、情報を適切に伝えていく必要があると思います。

<参照>
■Nicolas Rivron et al., Human blastoids model blastocyst development and implantation, nature, Published: 02 December 2021, DOI https://doi.org/10.1038/s41586-021-04267-8
人の疑似胚盤胞で「着床」再現 iPS細胞など利用―オーストリア研究所、時事通信社、2021年12月05日
■Daniel F. Azar, Breakthrough research on human blastoids and impact on IVF and contraception, IMBA, 12/02/2021