技術革新に追いつかない法整備


Illustrated by DAR

日本産科婦人科学会は2022年6月27日、「生命倫理課題を含む着床前遺伝学的検査(特に“不妊症および不育症”を対象としたPGT-A)の自由診療に関しての監理について国の関与を強く要望する」という趣旨の要望書を厚生労働省に提出しました。

現実的にPGT-Aが自由診療下で行われようとしている流れがあり、同学会は要望書で「自由診療であるから行ってよいという考え方で科学的根拠に基づかないPGT-Aが商業的に施行されること、検査希望者に対し正確な医学的情報が提供されずに検査実施の判断がなされることなど、患者の不利益につながる可能性がある」懸念を表明しています。

出生前診断はその有用性が期待される一方で、生命倫理上の課題が残されています。
「正解」がないからこそ、当事者が後悔のない結論を出せるよう、出生前診断を行う際には事前に十分な説明を受けることが必要です。
同学会が言うように「一学会の見解のみが日本国の中でのルールとなっている」のは決して望ましい状態ではないと思います。

今回は出生前診断が対象ですが、米国では2016~21年の5年間で、米国で子宮移植を受けた女性33例の6割で生児を出産したことから、子宮移植が子宮性不妊症女性の妊娠・出産の外科的治療となる可能性を結論とする論文も発表されています。

早すぎる医療技術の進歩に社会的な取り組みが追いついていないことは否めません。

生まれてくる子どもたちとそのご家族が現実と法整備の狭間で不利益や偏見にさらされないよう、今回の要望書が活かされることを望みます。

<参照>
要望書「生命倫理課題を含む着床前遺伝学的検査(特に“不妊症および不育症”を対象としたPGT-A)の自由診療に関しての監理について国の関与を強く要望します」の厚生労働省への提出について、公益社団法人日本産科婦人科学会、2022年6月29日
■太田敦子、米、子宮移植33例の6割で生児出産 追跡期間中に死亡例なし、Medical Tribune、2022年07月14日